たんぽぽと兵隊



戦地に、ひとりの兵士がいた。
兵士は、ぼろのテントのなかで、毎日敵が攻めてくるのを待っていた。

あるとき兵士は、テントのそばに小さなたんぽぽの花が
咲いているのを見つけた。
ひび割れた土地と砂ぼこりの中で、
それはふしぎなほど明るく、きよらかでかわいらしい花だった。
まるで、ふるさとにのこしてきた妹みたいな。あるいは初恋の相手みたいな、花。

「なんだ。おまえ。こんなところでよく咲いてるなあ」

-------こんにちは。ここはとってもお日さまがきれいなんだもの。

花はそんな事を言っているかのように、太陽の光にむかってせいいっぱい咲いている。


兵士はその日から、少しだけその花を気にかけるようになった。

---------おはよう。今日もいい天気ね。
夜の間しぼんでいたたんぽぽは、朝露にキラリと輝いて咲いた。

昼の太陽を浴びると、いっそう大きく花ひらく。

世の中の悲しみや、寂しさやうれいなんてものは、なにもないかのように。ただ、元気よく。

「おまえは、幸せそうでいいなあ。」
兵士はしゃがみこんで、かわいい小さな花びらのあつまりに、ふれた。
反動でみずみずしい茎が軽くしなったが、また、いつものすがたにもどった。

------------わたしは、あなたみたいに弱くないの。もっと、元気だしなさいよ。

そう言われているようで、兵士はすこし可笑しくなった。

夕方になると、花は眠るように花びらを閉じた。

あるとき、兵士は花の異変に気づいた。
たんぽぽはいつもの元気がなく、日の光を浴びてもしおれたままだった。
(雨の降らない日が続いたからかな。)
かれは自分の飲み水を少しだけ、花にあげることにした。

「おまえ、何やってるんだ。もったいない。
花なんか育ててるのか。変なやつだなあ。」

同胞はからからと笑ったが、兵士は満足だった。

--------ありがとう。あつくて、お水がなくて、元気をなくしてたの。

暑い日々だった。でも、花は水を受けて、いっそう綺麗に咲いた。

そんなことが数週間続いた、ある日のこと。

テントに、敵が奇襲をかけてきた。

青い空の下で弾がひかり、すべてをつらぬいていく。
あっという間にあたりは硝煙と、砂ぼこりにまみれ
ばたばたと人が倒れていった。

そのなかに、あの兵士もいた。



(おれは、もうだめだな・・・・・。)

地面に頬をつけたまま薄くあけた彼の目に、あの、小さなたんぽぽがうつった。
黄色い花は、いつしかまんまるい白い綿毛に変わっていた。

(ごめんな。もうおまえに水をあげることができないよ・・・・・。)

--------いってしまうの?
たんぽぽは悲しそうに、風に茎をゆらした。そのとき。

「・・・・あ・・」

お菓子のようなかわいい白い玉から、ひとつ、ふたつ。
ふわふわ、ふわふわ小さな種をのせて、綿毛がとんでゆく。

--------みて、みて。すごいでしょう。こんなにたくさんとんでいけるの。


(・・・よかった・・・・・)

兵士はほほえみをうかべたまま、静かに目を閉じた。

--------あなたのおかげでこんなふうにとんでいけるのよ。
どこへいくの。わたしもいくよ。

うすれゆく意識の中で、
兵士はそんな声を聞いた気がした。

また強く風が吹いた。
たんぽぽは天使の羽のように空に舞い上がり、そしてどこかへきえた。



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暗い話ですみません^^;
なんとなく、思いついてしまったもので。。。
どんな素晴らしい人生でも、ちっぽけな人生でも
地球の片隅に生きる命はどれも重いですよね。
みな幸福や、平和を望んでいるのはおなじはずなのに
私みたいな人間が口ずさむそんな言葉だけでは、かたづけられないものがあって。
争いや死に向かって、つきすすんでしまう運命もある。
人間とは複雑なものだなあと、ふと考えて作ったショートショートです。


ほーむ

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